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moon shine / sun shine
家族編第5話
「はー、須王助かる。なんか今日は、いい気分で勉強できそう……」
 英語のセンター対策をしながら、陽がつぶやいた。リビングじゃ集中できないと言う陽の主張により、ドアを開けた状態であるが、陽の部屋で勉強することになった。俺って男として見られてないなーと思う。それになんといっても陽自身は大分ブラコン。
 じゃぁ逆はどうかと言うと、確かにこっちも異性として見れるかというとそうでもない。
「たしかに光が合格したのはいいけどさ、まったく、偏りが過ぎるようちの家族は!」
「それはお前もそうなんじゃ……」
「うるさい須王」
 おとなしく文章問題に取り掛かる。
「……俺も愚痴っていいか」
「李花に関わるんならいいよ」
「すっげぇ言い方」
「ま、ね」
 二人は親友だ。
「うん、……父さんが昨日、家族で会わないかっていってきた」
「もうちょっとわかりやすく」
「えーっとだな、母さんや李花と、あわないかって」
「…………あのおじさんがそんなこといったの?」
「仮にも人の父親捕まえていうか」
「エーだってあのおじさんだよ!? なにそんな話になってんの。いきなりじゃない」
「う、……俺が国立落ちると、あの人の年収じゃ学費がきついからな……それ、かも」
「だから夫婦共働きで稼ぐって言うの? そんなんで再婚なんて意味ないよ!」
「どうだか」
「おじさんヤなこと考えるなー」
「息子に苦労は見せたくないんだよ」
「なんかそれって違う気がする。父としての威厳とかじゃないの?」
「まぁ、否定は出来ないが」
「やだなー。再婚は喜ぶべきだけど、でもなんかそんな裏事情いやだ。でもおじさんがそんな話するってことは、もう李花のお母さんとは話があったってことでしょ?」
「たぶん、な」
 石橋を叩いて渡るあの人が、相手に通していない話をするわけがない。となると、姉のほうも同じ話を聞いている気がする。記憶の中にいる母さんは、とろい父を叱り飛ばして尻を蹴るような人だった。うん、見通しがついた時点であっさりと話すだろう。
「陽ー、須王ー」
「光?」
「母さんが夜食用意したから下で食べろってさ」
「なんでわざわざ下まで?」
 珍しくむっとした表情の光が立っていた。珍しくと言うには語弊があるが、合格してからと言うもの、光の表情にはさわやかさが付きまとっていた。
「早くくれば?」
「まったくもー、はっきり言いなさいよねー」
 ぶつぶつといいながら、陽が部屋を出て行く。それについていくようにリビングに行くと、テーブルの上にピラフが在り、フローリングに譜面台があった。しかも近くにはヴァイオリン。さらにいえば、憧れの大樹さん。これはこれはもしかして……
「二人ともがんばってるみたいだからね。なんか弾くよ。リクエストがあればどうぞ」
 大樹さんが言った。きてよかった!
 そうか、光が怒っていたのはこれが理由か。ファザコンめ。
 だがいきなりだと何の準備がない。リクエストしようにも混乱して思考が。
「じゃぁ今考えてる新曲」
「……陽、そのリクエストは……」
「この前ちょっと聞いたらいい曲だったよ?」
「ピアノがないと無理なんだよ」
「光に弾かせればいいじゃない」
 一気に傍らにいた光が笑みを浮かべ始めた。
 大樹さんも光の表情に押されたのか近くのアップライトに譜面を置いた。光が懸命に譜面をおっている。即興演奏ならむしろ奥さんの方が得意なのに、ここで光を出すところに陽の上手さがあるんだろうな。あんなに喜ばれたら、別の人は言えない。
 光が何分かうなったあと、演奏が始まった。どうして今、自分はここでピラフを食べているのか不思議な気分になる。
 演奏を聴けば、それはそれで幸福だ。
 でもここに自分がいるという、言い尽くせない違和感。それはつながることのない、絆。
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