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moon shine / sun shine
姉弟編第1話
 昔から気管支が弱い。病院とはお友達だったし、家にいるのと病院にいるのと、時間は同じぐらいだった。点滴なんて看護婦さんから「さしやすいわぁ」なんて賞賛もらっちゃったし。白い肌は血管をきれいに見せる。病弱っていえば話は早いか。
 でも気管支は大体、年齢を重ねると丈夫になっていくのよ。私も小学校上がってからは、一度入院しただけで、後はもう平気――の、はずだった。
 覆されたのは中三。推薦で高校が決まって遊んでいた二月ごろ。インフルエンザから肺炎になっちゃって、一気に病状悪化。一応受験生だったんだし、インフルエンザの予防接種ぐらい受けておけばよかったーなんて、当たり前のことを思ったりした。私は、卒業式に出られなかった。もちろん、その年の入学式にも。
 高校の校長が心の広い人で、母の知り合いだったこともあって、入学延期、という措置にしてもらえた。本当は休学ものなんだけど、そうすると授業料とかの払い込みが必要になる。うち、そんな裕福じゃないのよね、母子家庭だから。
 病院とはお友達だから不平不満はなかったけれど、無駄に寂しくて。友達とかが来てくれたけど、そのあとにどっと来る寂しさが、一番つらかった。
 一年後、退院して無事高校入学。クラスメイトは一コ年下の子ばかりで、当たり前のことに胸が痛んだ。でも、悪いことばかりじゃなくて、西尾陽――それこそ、幼稚園以来の親友――がクラスメイトになったの。
 器量よしの陽と親友って、コンプレックスじゃない? ってきいてくる子はいるけど、あたしから言わせて見れば普通の女の子だし、ついでにブラコン。料理は包丁持てば指切るし、煮物を作ればなべを焦がし、フライパンでいためればなぜか具が小さくなってる料理オンチ。ね、フツーでしょ?
 嫉妬しないといえばうそになる。母子家庭になってこの方十年以上経つけれど、私の弟に会えていない。一コ下で、もちろん陽と同い年。その弟君は陽が通う音楽教室に在籍し、さらに陽の双子の弟・光君のクラスメイトなのだ。つまり、あおうと思えばいつでもあえるんだよ。うらやましいなぁ。
 弟の名前? その前に私の名前を聞いてよ。青木李花っていうのね。弟は須王楓。小さいころからヴァイオリンがちょー上手くって、私は大好きなのよ! あー、私も他人のコト言ってられないわね、所詮ブラコンか……別にいいわよ、ブラコンだろうと何だろうと。
 あえないのよ、あえないやつに思いを馳せて何が悪いんだっての。
 青木李花さんは、病弱だけど結構神経図太く育ってしまったのさ。六歳で親が金でもめて離婚だもん。図太くなるわさぁ。
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