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明るくなる方法
第14話
 いつもの屋上。ポスターに書かれた言葉を読んだのか、冴島から声をかけてきた。まぁ、屋上じゃぁそうそう珍しくないんだけど。
「相変わらずの優等生ぶりに、俺は頭が下がるよ」
「……イヤミをありがとう、冴島」
「あの写真のような笑顔はどこにおいてきたんだよ。ヒドイなー、眉間のしわ」
 日に日にイヤミ指数を上げてきたこの男、冴島秋は現在進行形クラスメイト。冬休み、大きな問題は起こさなかったらしく、始業式にうわさもなく、現在進行形でいられるのにびっくりした。数日前までは席が前後の中だったが、学期の変更と共に行われた席替えで、今度は隣という腐れ縁ぶりを発揮。
 腐れ縁、といっても、付き合いはここ数ヶ月。その間にイロイロ協力してもらったせいか、私はなんだかこいつに頭が上がらない。イヤミを言われたらイヤミで返せ、といいたいところも、この男に、イヤミになりそうなところがほとんどないのが癪に障る。
 夜になるとどこかで暴走行為してる不良で、暴力沙汰で停学になっちゃうような女の人と仲がいいくせに、バカじゃないってあり? って思いますが。
 不良な自分を、欠点だとは思っていないし。数学気づいたら解けちゃうし。考えてみれば、こいつが再試うけたって言う話も、補修受講者一覧にも見たことがない。
 イヤミ言いたくても、それほど冴島を私が理解していないだけなのかもしれない。
「見たぞ〜李花、生徒会長候補」
 職員室前なんて鬼門だろうに、快活に言って冴島の隣に立つこの人、井上真理は、県内で評判の不良だ。実際、暴力沙汰で停学一週間他の前科もの。親のコネが大分上まであるらしく、なかなかに好き勝手をやっている、教育委員会の目の上のたんこぶ……だと思う。
 まぁこの人に関しても、現実どうなんだろうって疑問符が多い。
「あたしはおまえで投票しとくよ。知らないからな、他の候補者」
「やめてくださいよ!」
 真理先輩の言葉に、全力で拒絶。笑う。
 私は屋上にいると、本気で笑えた。他の場所ではためらっても、無視されている視線が痛くても、ここにあるのは冴島と真理先輩と空だけだったから。寒さが頂点に達しつつある今も、屋上に来ないことはなかった。
 真理先輩と冴島は、唯一の……
「でも、あんたがなったら、あんたなりにいい会長を目指すだろう?」
「……なってみなきゃ、わかりませんよ」
 これから、選挙直前の演説原稿を考えないといけない。草案は出来ているんだけど、あまりにも典型的の地をいっていて、面白みがない。先生のチェックがあるために、めったなことはいえないからなんだけど。なりたくないとか、さ。
「大変だなぁ、優等生は」
「冴島、アンタいつになったら私のこと名前で呼ぶの?」
「ぷっ」
 真理先輩が、突然笑い出した。
「いい質問だなぁ、李花。ほんとほんと、この男はいつになったらいうのかねぇ?」
「真理ッ」
「……おーおー、青春だこの野郎」
 真理先輩がお腹を抱えて笑ってる。冴島は冬の寒さも知らずに赤くなっている。
「……えーっと……」
 なんだか質問した自分がいけない気分になって、謝ったほうがいいのか、冴島の顔色をうかがってしまう。私の視線に気づいたのか、冴島が顔をそらす。そんな様子がおかしいのか、真理先輩は輪をかけて、さらに笑う。
「冴島君!! ほら、名前は?」
「……」
 観念したようだ。一瞬うつむいて、こちらを見た。
「李花」
 そのまなざしがあまりにも真剣だったから、今度は私がうつむいて、視線をそらした。さっきの冴島よりも顔が赤くなってる気がする。心臓の動機の仕方がおかしい。
 もうちょっとかわいいなりかたしようよ心臓!! 心音!!
 動機が高くなると同時に、若干の息苦しさが襲う。むせたときのようなせきを数回して、ハンカチを出して口元を覆う。最初は照れ隠しと冗談めかしていた先輩も、目の周りが赤くなると、段々顔が青ざめてきた。
「だ、……じょ」
「背中さすったほうがいい?」
 首を横に振った。そろそろ収まる。体がさめないように、腕をぎゅっと握った。
「……珍しくない、ことですから」
 落ち着いた隙に、こぼす。
「気管支、強いほうじゃなくて」
 大きなため息をつく。冴島がブレザーをかたにかけてくれる。……うちの学校はどうして、女子セーラーで男子ブレザーなんだろう……セーラー寒いのに、冬は冬で。
「小さい頃はしょっちゅう入院していて。大きくなると丈夫になるから、まぁ、大体平気なんですけど。私の場合時々、せきが止まらないんです」
 つとめて笑顔で。
「重い病気とかじゃないんだな?」
 真理先輩が言う。ぜんそく持ちってワケじゃないしな。
「全然。定期健診で、悪くなっていないかを見てもらっていますけど、気管支強くするには若干の運動とかも必要範囲内だし」
 真理先輩の眉間のしわが、一ミリ薄くなった。
「……以後、ここに来るときは格好に気をつけること。薄着だったら入れないよ?」
「はい」
 笑って答える。
 けれどもそれは、ここに来るために加わった条件で。――条件を加えても来るだろうと、きっとこの中の誰もが疑っていない。幸せな条件だ。
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