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第13話
新学期始まってそうそう、私の身に降り立った不幸。
いや、予想しないほどバカじゃありませんよ? なんといっても先生の信頼篤い優等生。でもだからってさぁ……
「それでは、うちのクラスからは会計、笹本一樹君。書記、東山悠さん。そして会長、青木李花さんの立候補が決定しました」
拍手が教室に響く。――――どうなっとんじゃぁ!!
何もない年末年始が終わって、始まった三学期。一二週間もたてば、二月末の学年末試験が足音を立てはじめ、一年間のまとめに余念がない……はずなのに。
生徒会役員選挙。
うちの学校では、生徒会役員は六人で構成される。生徒会長、副会長、会計二人、書記二人。約三十五人のクラスが四つあるうちの学年では、各クラス最低二人以上、必ず役員への立候補者を出さなければいけないことが、学級委員会議で決まった。先生の陰謀か、二人といいながら、大概のクラスで各役職一名ずつの計三名出るわけだけど。
人気投票だったり優等生投票になったりするこの役員選挙。優等生ぶりだったら自信があるけど、最近のクラスメイトの自分に対する対応を思えば、どうして私の写真ははここにあるのか、ふしぎでたまらない。
生徒会長立候補、青木李花。
いまどきにしては画素数の低いデジカメで取った荒い画像。
投票まで一週間と目前に迫った水曜日、掲示板に張り出された、いかにも急いで作りました感のあふれるポスターを前に、私は大きくため息をつく。本当に、どうして、私が……
周りの立候補者を見ても、ぱっとしたやつはいない感じ……? ちょっとー、才色兼備の青木李花さんが会長に当選しちゃうじゃないのよー。公約よろしく、ポスターに書かれた言葉もまた、我ながらうそ臭く、優等生くさい。――みなさんの学校生活の充実のために云々。……写真の中の私はこんなにも、その言葉が似合うのか。
「あら、青木さん?」
どこかで見たことのある、ロングウェーブの女の人が声をかけてきた。真理先輩では利かなかった、必殺上履き読みで、二年生というのが分かる。今年度は、赤が三年生、青が二年生、緑が一年生なのだ。
「はじめまして。ハネチナツです」
えーっと……なんだかあからさまに、言えばわかるでしょ? なオーラを放っていただいているんですが、私、全然分かりません。なんとなく記憶の片隅にはあるんだけど、どうも思い出せないのはボケか、本当に知らないかだよな。
聞くは一時の恥というけれど、この人の自信満々なオーラを前に、どちら様でしょうかなんて質問をしたら、ああなんか、こういう笑顔の人だからこそ、般若のような怒り方を……
「現生徒会長の、羽根 千奈津です」
羽根さんなんて、変わった苗字で。ん?
「生徒会長……あぁ!!」
生徒総会で見てるよこの顔。
「二代連続で女生徒会長って、先生方の間でもうわさになっているわね。意気込みのほどは?」
やんわりとした言い方。そういえばこの人がしゃべってるとなんか眠気が襲ってきたんだよなー。
マテ。
確かに自分以外にぱっとしたヤツいないなーと思ってはいたけれど!! 二代連続女生徒会長ってなんですか。先生方の間でもってなんですか。「も」って!! 私はなりたくないっつーの!
まてまてまてまて、落ち着け自分。ここで優等生である私が取るべき態度は、えーっと……
「そんな、私が生徒会長なんてとてもとても……」
「謙遜、謙遜。内申目当てでしょう?」
やんわりとした言い方も、浮かぶ笑みも変わらずに直球な質問するなこの人。嫌いじゃないぞーその性格。
「内申目当てだなんて……内申目当てでなく生徒会にはいった方がいらっしゃるのか、疑問ですけど?」
生徒会にはいった人の内申はべらぼうに良くなる。というのがうちの学校でのうわさだ。他の学校でも大概そうだと思うけど、うちの学校では特にロコツらしい。生徒会役員で推薦で決まらない人は居ないというほどのお話で、どの教科も必ず一段階は上がるとかなんとか。
職権乱用だということでずいぶん前からPTAと学校側でもめてるこの内申びいきだけど、実際の内申が公開されない限り、ほんとのところはうやむやにされたままだ。
「いい性格してるわね、青木李花さん」
「羽根先輩こそ。さすが生徒会長をされた方は違いますね」
イヤミだイヤミ。
「まぁ、多くは否定しないわね。内申目当てって言うのは否定させてもらうけど。……私がなるべき人間だったからなったのよ。ほかに理由はなくってよ。あなたの当選を祈っているわ」
すごい自信。頭が下がるって言うか。内申は確かにうなずけるけど、勉強時間減らしたくないし。会長にはならないようにしなきゃ。
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