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明るくなる方法
第12話
 冬休みが始まった。それと同時に、塾の冬期講習も。
 太陽が南中する真昼間、筆記用具とノート、テキストであふれた重いかばんを肩から下げて、緑と赤のクリスマスカラーのあふれる駅前を通る。冬の天気など気にすることなく。駅ビルの階段を上って左腕の時計を確認。始業、十五分前。指定された座席に腰を落ち着かせて、昨日やった予習の確認。
 数分もすれば先生が来て、テストを配ってまた教室から出て行く。
 テストが終わる頃に始業のチャイム。先生が入ってきてテストの答え合わせ。授業。
 今日と言う日の、私の今年の過ごし方はこれ。ここ数年変わっていない気がするけど。
 母もいつもと一緒。この日は何があっても、絶対に、家には帰ってこない。
 十二月二十五日のクリスマスを、両親が離婚して以来、親しい誰かと一緒に過ごした記憶はなかった。
「十一月の定例テストの結果を配布するから、呼ばれた順に来るように」
 そうして始まる今日。模試の結果は、県内では一位を取れても、全国単位になると取れたためしかない。そもそも全国一位を取るやつって何者?
 今回は数学がいい感じ。よしよし、この調子でな、なんて先生早すぎですよ、このコメント。まだ受験は早いです。
「これで、今日の授業は終わり。まぁ、再来年は受験生だからな、今のうちに遊んでおくのも一興――だが、ハメをはずしすぎるなよ」
 そうして、今日が終わる。一時間でも一分でも、―― 一秒でも、今日が早く、終わればいいのにと、みぞれがかった雨の中を、ただもくもくと歩いた。



「ただいま」
 部屋の明かりをつけて、ベッドに倒れこむ。冬期講習始まって三日目が、一番つらい。今回は運悪く、毎月のお客様も来てしまった。何かがたたっているに違いない。
 でも明日も十三時から授業がある。復習をして、予習をしなければ。量的にはたいしたことはなくても、冬休みの宿題だってある。できるなら、十二月中に終わらせておきたいのが、優等生の人情と言うもの。
 十二月二十五日のクリスマス。
 机の引き出しには、出せない手紙が一通加わっていた。十二月二十四日の、誕生日にあてて書いた手紙が。
「……」
 いつになったらあえるのか、なんて問題じゃない気がする。
「かえで……」
 あの日のことを、今でも鮮明に思い出せる記憶がにくい。
 つないでいたはずの手を、どうして私は離してしまったのか。問われて、見つめられて、拒絶と言う答えを導き出せなかった自分。それはよわさだった?
 悔んだって仕方がない。今の私の家族はただ一人――母だけ、だ。
 おもむろにカレンダーの日付にバツ印をつける。
 今日が終わる。明日が終わる。そして――学校が始まってくれる。その頃には今日のことも、陰鬱な記憶の一つになっているだろう。そうであることを祈って、眠る。
 一日を終わらせるために。

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