ひとまず、「萌え」が現状どのあたりかをさらす短編『俺と姪っ子』『私とおじさん』が新年一発目の更新になります。
……新年あけましておめでとうございます。orz
『明るく』をまとめて更新したかったんですが大長考に入ってもしかしたら根幹から直すかも? しれないのでちょっと放置。いやっていうかもう、自分の書きたいところだけ書いて更新できたらいいのに!!!! みたいなそんなジレンマ。
短編って言うより掌編みたいな言い方の方が正しいと思いますが。
※以下ちょっとネタバレ
小学生の頃、自分の名前の由来を聞いて作文にする、という宿題があった。凝った名前の子は、そんな宿題よりもっと前から自分の名前の由来とかを知っていて、驚かされたので、よく記憶に残っている。いろいろと聞けば、クラスの半分以上は、宿題にされずとも、知っていた。
ひと昔、ふた昔前なら当たり前であっただろう、最後に「子」のつく女の子は、クラスでも私だけで、物珍しがられていた。 正直、由来なんてないのだと思っていた。だから、聞いたことがなかった。
早速家に帰って母に聞くと、 「出会った人の心に残るような子になりますように」という願いで「銘子」らしい。 銘という漢字に、刻むという意味がある。正直、ちょっと以上に感動した。
一方で父に聞くと、「絶対女の子なら、めいこって名前にしようと思ったんだ」なんていう。母も母で本当のことを言っているんだろうが、どっちが先なのか、わからなくなったきたところに、答えが登場した。
それは、遊びにきていたおじの浩介。バイトの帰り、兄夫婦宅にきた叔父を父と母が二人してからかう姿に、ふと、あっさり答えが出た。
「銘子は僕の姪っ子だよ」
なんて、ギャグにしかならない言葉を愛する(義)弟に言わせたくて、私の名前をつけた。……だろうなって。
そんな冗談はさておき、――とはいえなかなか冗談として笑いきれないあたり、本当に私の叔父は、(私の)両親の愛をうけ、信頼を受ける数少ない人物だ。娘一人の名前をある意味で委ねてしまうくらい。
もともと幼馴染だった両親は、私が生まれた当初、二十四と十八だった。母は高校を卒業したばかり、父は就職したばかり、そんな夫婦だった。時々祖父母のところに行くとそのことの恨み辛みなんかも聞けたりするが、それは別の話。必然、母は家計を回すだけでも 精一杯だったから、私の面倒はいろいろな人にお世話になったとよくいう。
そこで一番お世話になったと豪語するのが、父と一回り離れた叔父。私が生まれた時は十二歳。学校帰りに我が家に直行、夕飯の手伝いやら外遊びやら、なにかにつけて私の面倒を見てくれたらしい。その記憶は、確かにある。
こーくんと、小さい私は呼んでいたけど、いまではこーすけとよんでいる。フルネームは佐伯浩介。父・俊之と母・佐和子が娘並みに溺愛する叔父だ。悔しいことに。
佐伯銘子の初恋は遅くて、失恋はだれよりはやかった。十一のとき、社会人としてスーツをきた浩介を好きになって、直後におじさんとめいは結婚できないんだと知る。「惚れたって仕方ない」という母のひとことで、不毛な恋愛なんだと思い知らされてから、けれども好きになる人は、年上ばかりだ。 すっかり刷り込みがされてるのよ。
学校の先生とか、コンビニのお兄さんとか。
以前、学校の先輩と付き合ったけれど、二歳しか違わない男性とは合わないなって実感したところ。なんだか周りがこどもばかりで、会話がちっとも楽しくない。趣味とかがあわないんだよね。以来、特に出会いがないこともあって、残りの高校二年間は彼氏なし。刷り込みをした責任は、とって欲しいくらいだ。
「ねぇねぇ、なんでこーすけは結婚しないの?」
「そうやってズケズケ聞いてくるところ、本当に佐和子さんに似てきたな、お前」
近所のパン屋にいたところを捕獲され、なかば選択肢のない状態で泊まり慣れた2DKに落ち着く。相変わらず律儀に自分のベッドは私に譲り、こーすけは狭そうながらも、ダイニングの二人がけより少し大きいソファに寝そべっていた。冬だから、いくら布団と毛布があっても、ふとんじゃないぶん、きっと寒いと思うんだけど。
私は今日のことをいろいろ振り返りながら、なかなか寝付けなくて、 ダイニングでテレビをみていた。
深夜のテレビで散々タレントの恋バナを聞いていると、多少は気になる。それにその……両親のこともあるし。こーすけって、結婚していてもおかしくないし、子供がいてもおかしくない。そんな年齢だ。
「というか、彼女とかいたことある?」
「あるわ、それくらい」
ふむ。童貞ってわけでもないのね。
「じゃ、その彼女と結婚しなかったのは? なんで別れたの?」
「知らねーよ。あっちが勝手に、浮気したんだ」
そっぽを向く。これはだんまりのタイミングだ。聞かれたくないのかなー。
でも実は少しだけ、お父さんから聞いてる。
こーすけの初恋はお母さんだったこと。それがなかなか忘れられなくて、付き合ってもすぐ愛想をつかれてしまう。彼女が相手にさらていなくて、悲しくなっちゃうらしい。
半分はお父さんの推測でしかないけれど、なんとなくわかる。初恋は、その面影が消えるまで、だいぶ長い。 私にはまだ、終わりの見える気配はない。
もしかしたら、初恋を超える出会いなんて、ないのかなと不安にもなる。
だからこそ私たちは、互いに拠り所なのだ。
「こーすけが四十超えたおじさんになってもまだ結婚していなかったら、私がお嫁さんになってあげよーか?」
「うっせ」
ソファから手が出て頭を小突く。
痛いのに、ささやかな、ささやかな幸せを感じる。これが、余韻ってやつだろうか。
あまくて、にがい。 初恋の。
そこは、よくある駅ビルというやつだ。
とはいっても、各駅停車しか止まらない駅のこと、スーパーが一階、本屋と文具屋が二階、衣料品他生活用品が三階にあるだけの、ささやかな駅ビルだ。夜も二十三時まで営業しているので、一人暮らしの自分にとって、歩いてすぐのコンビニより、使用頻度は高い。
一階にあるパン屋、そのイートインの一画は地元のちょっとした喫茶店だ。清潔感以外はなにも売りのないその場に、時間にして二十二時。
一回り年上の兄の、一回り違う姪っ子がいた。それも一人で。
「おっま、なにこんなとこいんだ?」
「そっちこそ。」
出たのは憎まれ口。生まれたときこそかわいいかわいい姪っ子だったが、年々生意気になり、今年で高校も卒業だ。年月とは残酷で、その間に俺は三十路を迎えてしまった。
「俺は夜食の買い出し! っつーかお前、補導されるだろ! 入学取り消しとかになってもしらんぞ!!」
「夜食? 今の時間になって食べたら太るよ?」
「もう太ってるわ!」
この際、自分のたるみきった腹は置いておく。あんなにかわいく「こーくん」といった彼女はどこへやら。仕方なし、ため息をついて、パイプ椅子がおしゃれになった程度の椅子に腰掛ける。まあ、これで補導はないだろう、自分が職務質問される可能性は上がるが。あー、あれだよあれ。職業聞かれると困る職業だから。
「邪魔だし」
「なら、家に帰れ~?俺がここにいるのは、お前が補導されたら兄貴が号泣して俺の家で潰れるのと、それでおれんちのビールのストックがなくなるのと、お前をこんな時間にこんなところで発見して、挙句放置したことがばれたら、強面の兄貴になにされるかわからないからですー自分のためデス~」
「なにそれ」
もう一つ、このまま帰っても気になって仕事が手につかず、結局戻ってしまうだろうからというのは甘やかしになるので言わないでおく。結局は兄の一人娘、 俺もなんだかんだで甘い。家が駅に近いものだから、制服から私服に着替える拠点がわりに使われることも度々。
こーすけーって、呼び捨てだけどな。
「ちなみに、俺はこの見切り品唐揚げのチンをすでにしたから、十秒以内にお前がここから動かなければ、兄貴に通報する」
「お父さんだけは、絶対イヤ!!」
「珍しい、親子ゲンカか?」
奥さんの影響も強いだろうが、兄夫婦はすこぶる夫婦仲がよく、親子仲も一般的な部類と思われる。自分の両親は、子供が大学卒業すると同時に離婚する程度に冷え切っていたので、比較に自信はないが。
もちろん、それなりに反抗期などは過ごしているものの、今現在、そこまで悪いというわけじゃないはずだ。
「理由、話したら今日泊めてくれる?」
「それでお前の頭が冷えるんならな」
奥さんに連絡しようかとも思ったが、時間が時間なだけに、兄ならまだしも、その嫁の携帯を鳴らすのは躊躇われた。
「赤ちゃんが、できたの……」
「……」
気持ち、走馬燈であれこれと巡りつつ。
「はぁ?! お前に?!」
「違うに決まってるでしょ!! お母さんよ!!」
「あ、ああ……そっちか……若いなぁ、兄貴。いまいくつだ?」
自分の年齢に十二を足す。まぁ、最近の晩婚化を考えれば、珍しい齢でもないだろう。
「そういうの、禁止!!」
「はぁ~ん? それが理由で兄貴は嫌か?」
こんな反応するくらいなんだから、男なんていないんだろうな、おじさん安心。いや別に、こっちに彼女がいなくなって久しいからではなく。最近の子は早熟っていうしねぇ……なんて言えば、地雷ものだろう。
冷めてしまう前に唐揚げのパッケージをあけて、割り箸をわる。この真ん中で綺麗にきれるスキルは一人暮らしですっかり熟達している。
「生理的なもんだろう? 悪いことは言わんから、早く謝って、お母さんにおめでとうっていっておけ。言えなくなるぞ」
なにしろ、俺自身ができたとき、兄にそう思われたに違いない。一回り違うということは、できたとき、小五か小六だったはずで、そこらへんの難しいお年頃だったに違いない。相談はむしろ兄にしてくれと思わなくもない。
だが、こういう反応、思春期――というほどでもないかもしれない、もう大学生になるんだから――の初々しさを感じないでもない。
いまだにためらう風で、仕方なし、助け舟をだす。
「お母さんに電話して、謝って、おめでとうって言えたら今日だけ泊めてやるよ」
「ほんと?」
これは、そうとう兄貴に言われるかもしれない。というよりも、男としての生存本能をむき出しにした結果、娘にえっらい嫌われ方をした兄には、若干同情しないでもない。ってかこの場合、確実に俺は男としての範疇に入ってないから、泊まれるんだろうなぁ。
「うん、うん、……そう。お母さんおめでとう。 今日は、……あ、わかった?」
唐揚げが食べ終わるのと同じくらい、終話ボタンがおされる。本当に便利な世の中だ、わざわざ公衆電話を探さなくても自宅の、両親のどちらかに連絡できるんだから。
「電話、終わったか?」
「うん、終わった~。お母さんから、いつもご迷惑をおかけします、お世話になりますって」
たしかに、なにかあるたびに我が家が避難所だ。今回が特別でも何でもなく、高校に入ってからは減ったものの、反抗期らしき時期には毎日籠城された。たまったもんじゃない、といえなくもないが。
「初恋の人に、頼まれたらなぁ」
ひとりごちて、横をみると、面差しの似た少女が年々、女になっていく。
「こーすけ、お腹空いた~」
「『こんな時間に食べたら、太る』ぜ?」
「私はまだ若いから平気ですぅ~」
腹の立つことをいいながら、当たり前のように隣に立ち、当たり前のように腕を絡める。
まぁ、おじさんですから。