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プロローグ
親愛なる、須王楓様。
あなたの姉である私、青木李花が中学に入って、もうすでに半年がたちました。あなたが中学に入学するのもあと半年後ほどですね。――が。中学というものは、天国だとは限りません。
自分の花を、自分の力で咲かせる努力をしなければならないのです。
邪魔をする人が多くても、誰も助けてくれない――そう書こうとして、あまりのマイナス思考ぶりに嫌気がさして、ペンをとめた。
息を吐く。――そんなものだ。卒業できて、高校行って、平凡に、過ぎていけばいい。この家を出るまで。
あて先が永遠に書かれない手紙に封をして、机にしまう。これは日記みたいなもの。気が向いたときや、いらだっている時とかに書いて、心を落ち着かせる常套手段。私にとっての究極の癒し。
しんと静まったマンションは、まさに集中するためだけにあるようなものだ。自分の好きな音楽と、車の音が耳に入るだけ。半袖だと少し肌寒い今日みたいな夜は、カーディガンを一枚着て、ベランダに出てボーっとする。お母さんの帰りが遅いのはいつものこと。時計の針が頂上で重なっても帰ってこないことだってある。今日もきっとそんな日だ。
ベランダに立つ私に、触れる夜風。励まされて、なぐさめられて。涙がこぼれないように、上を向く――そんな必要なんてなかった。
孤独だからって泣く必要は、どこにもないから。
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